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活動レポート

蚊も時計を持っている

「蚊も時計を持っている」

著者:千葉 喜彦

発行:さ・え・ら書房(1987年発行)



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四季のある日本で暮らしているせいか、蚊に刺されると「夏だな」、そんな風に感じる。けれど、夜中の蚊、蚊の羽の音、蚊の痒みは幼い頃から大嫌いだった。昔から当たり前だった蚊の存在。当たり前だからこそ、なぜ夜中に蚊が活動するのか、なぜ蚊が飛ぶ時に羽の音がするのか、なぜ刺されたら痒くなるのか、なんて知ろうとしなかった。この本を読み終えてみて、自分がどれだけ蚊について知らなかったのか、改めて驚かされた。

 


この本は、時計生物学を研究者である千葉喜彦さんが、子ども向けに、蚊の体内時計を軸に、知っているようで知らなかった蚊の生態について説明している本だ。大人から子どもまで楽しみながら、蚊の生態を学ぶことが可能だ。私自身、ただ嫌いだった蚊の羽の音やあの痒みの原因も、この本を通じて知ることができた。

 

本の中では蚊の生態だけではなく、マラリアについても紹介されている。

 

蚊が媒介するマラリアは、アフリカや、インド、東南アジアなどの熱帯地方では、今なお多数が感染し、苦しむ人がたくさんいること。

蚊が動物の血を吸うことによって、人から人へマラリアが感染していくこと。

千葉さんが蚊について研究する理由は、マラリアにあること。

蚊の研究を通して治療法を編み出したり、マラリアの病原体を研究する必要があるからだと考えたこと。

 

「マラリアから人を守るためにはこうしたことを研究しなければいけない」と千葉さんは本の中で語っている。

 

かつて、日本全土にもマラリアは存在した。しかし、日本の住宅構造や行動様式の変化や、環境の変化により、マラリアの媒介者であるハマダカラの減少し、日本で海外渡航者の発祥を除いて、マラリアは発生していない。また、日本でかつてマラリアが猛威を振るっていたことを知らない人も多い。

 

日本に住む私たちが、現在、蚊に命を脅かされる恐怖はほとんどないと言ってよいだろう。しかし、忘れないで欲しい。世界にはマラリアに苦しむ人、命を奪われていく人がたくさん居ることを。

世界で一番多く人間を殺す生きものは蚊だ。その原因はマラリアで、犠牲者はほとんどがアフリカの子どもたちである。現在、1分に1人の子どもたちがマラリアによって命を落としている。

 

 この本を通じて、蚊について理解を深めるだけでなく、千葉さんが蚊を研究する理由について、マラリアについても考えてもらいたい。